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東京家庭裁判所八王子支部 平成3年(少イ)1号 判決 1991年7月03日

主文

被告人は無罪

理由

一  本件公訴事実の要旨は、平成三年二月二七日付け及び同年三月二六日付け各起訴状記載の公訴事実のとおりであるからこれを引用する。

二  検察官は、「被告人の本件事業は、一体として労働基準法八条一四号所定の『接客業』に該当する。」旨主張しているので以下検討する。

<証拠関係省略>によれば、次の事実が認められる。

被告人は、平成元年一〇月ころから、肩書住居地において個人経営で「○○企画」という名称で営業所を設け、ナンパ代行業(同所に若い女性を待機させておき、その女性を同所にやって来た男客と共に街頭に出させて、男客の気に入った通行中の女性に対し、男客に代わって営業所の女性が声を掛け、通行中の女性が了解すれば男客とその女性がデートをするという形態で、男客から入会金等を徴収するもの)を始めたが、利益が上がらなかったので止め、次いでお見合いパブと称するデートクラブ形態の営業(同営業所にやってくる男客が同営業所に待機している若い女性とデートをするという形態で、同じく客から入会金、入場料等を徴収するもの)を続け、平成二年七月ころ、かねてNTTに申し込んでいたダイヤルQ2システムの電話が同営業所に設置される運びとなったことから前記公訴事実記載のテレホンクラブ兼デートクラブの営業を開始した。ところで、ダイヤルQ2システムとは、情報提供者(本件では、被告人のこと)の設定した情報料をNTTが通話料に併せて利用者から代理回収するサービスのことであり、被告人は、右情報料を六秒間に付き一〇円と設定していた(なお、NTTが代理回収した右情報料は、後日被告人の銀行口座に振り込まれることになっている。)。被告人は、平成二年一〇月上旬ころには、前記営業所にダイヤルQ2の電話回線による電話機が一〇台程度設置できたことから、本格的に同営業所でアルバイト女性を雇って右電話による応対をさせるようになった。そして被告人は、客が同営業所に電話をかけて同営業所に待機している右アルバイト女性と会話をすることによりダイヤルQ2システムを利用して情報料をNTTに代理回収して貰う方法と男客のうち同営業所内にいる右アルバイト女性や右電話応対で待機中の女性と営業所外において一時間以内の交際(デートと称する。)を希望する者が、直接同営業所迄来れば、三か月間有効の入会金として一万円と入場料三〇〇〇円を徴収し、その男客は同営業所内にいる女性の中からデートの相手を指名出来、同女性がこれを承諾した場合には、二人は右時間内、営業所の外でデートし、同女性は、男客から五〇〇〇円を受け取るという方法で営業をしていた。被告人の考えていた右デートの内容は、カラオケボックスで歌を歌ったり、喫茶店で会話をしたり、スナックやレストランで飲食をしたり、踊ったり、客の買い物に付き合ったりする位に思っていたが当事者らには何の指定もせず、自由にさせていた。被告人は、右業務のうちダイヤルQ2システムによる電話の応対については、二四時間態勢で営業を行い、午後一一時から翌日の午前五時までを「オールナイト」と称して、予め右アルバイト女性に対してオールナイトで働く日を予約させ、予約した日に出勤しなかったものには、一週間同営業所への出入りを禁止していたが、男客と右女性との店外デートについては、午後一一時までとし、それ以降の外出を禁止していた。右アルバイト女性に対する賃金は、ダイヤルQ2システムによる電話応対の場合のみとし、時給制をとって、オールナイトの時間帯は、時給一五〇〇円とし、それ以外の場合は、時給一〇〇〇円とし同営業所に設置したタイムレコーダーにより電話応対した時間を把握し、それが一時間に満たないときや前記のデートに出たときには、時給の支払いをしない等の措置をとっていた。被告人は、同営業所に応募してくる右女性の大半が高校生や中学生などであり、年齢が一八歳未満の者であるという認識を持っていた。しかして右女性は、男性との電話応対の際、デートを希望するものには、右デートシステムや同営業所の所在地を教えたりしていた。「○○企画」の営業所内は一八平方メートル程の広さで、一〇台の電話器を置くためのテーブルが二つとそのほか、椅子二脚(そのうち一つは社長用)、事務机が一つ、来客用の二人掛け用ソファーが一脚、それに冷蔵庫やテレビ等が置かれてあり、特定の場所ではないがアルバイト女性の写真の貼付してあるアルバムもあって、前記のとおり、同営業所にデートを希望して出向いて来た男客は、右所定の入会金や入場料を支払ったのち、右ソファーに座るなどして電話応対中の女性や右電話の仕事で待機中の女性を物色し、その中から好みの女性を指名し、指名された女性が承諾すれば、一時間以内同営業所外に出てデートをし、男客は、同女性に五〇〇〇円を支払っていた。被告人の行っていたテレホンクラブとデートクラブの経理関係は、全て被告人が一括して処理していたこと。

ところで検察官は、被告人の右事業は、全体として観察したとき、労働基準法八条一四号の「接客業」に当たる旨主張し、その該当事実として、

1  女子労働者(右にいうアルバイト女性のこと)は、ダイヤルQ2の電話により、不特定の男客を相手に会話をしたり、デートクラブのシステム等を男客に話す等して男客をデートに誘っていること

2  デートを希望して「○○企画」に来る男客については、同営業所内に設置されている接客用のソファーに座り、同営業所内に待機している右アルバイト女性と会話するなどして、好みの女を選んで指名していたこと(特に平成二年秋頃迄は、右アルバイト女性が同営業所に来た男客に対して、缶ビールを出したりしていたこと)

3  男客に指名されてデートに出たアルバイト女性については、男客といわゆる店外デートをし、当該客とともに喫茶店、スナック、レストラン、カラオケボックス等へ行き、客と会話したり、飲食したり、踊ったりするのが業務であること

を掲げている。

よって検討するに、労働基準法八条一四号にいう接客業とは、客に接してもてなすことを業務とすることをいうということになるが、右にいう「接して」にはその趣旨に照らして観るとき音声のみによる場合はこれに含まれないものと解するのが相当である。

従って、検察官主張の第一点については、本件の如く外部から掛かってくる電話により客と会話を交わすことを業務とし、その際、前記デートシステムの説明などをしたとしても、これを以て右接客業にいう「客に接して」した行為と観ることは出来ない。

次に、検察官主張の第二点であるが、「○○企画」へ来た男客が好みの女性を探し、指名するまでの間、右営業所において、どこの事務所にでもあるような来客用のソファーに座り、デートの相手を探すためにその場にいる女性と多少言葉を交わしたりすることを被告人が認めていたからといって右にいう「接客業」のうちの「もてなすことを業務とする」というのに当たるとはいえない。なお、検察官は、被告人が平成二年の秋頃まで右アルバイト女性をして客に缶ビールを出させていたというが、その点については、前掲証拠によれば、被告人は、平成二年の秋頃以前、右営業所内が混雑しているとき、たまたま冷蔵庫の傍にいた女性に言ってそこから右ビールを出させ、客に渡させたことがあること及び右の頃迄の一時期営業所に来た男客が缶ビールを無料で、自由に飲めるようにしていたこともあったが、そうすると、長居をしたり、デートをしないで帰ってしまうものがいるので置くのを止めたということが認められるが、被告人が来客に缶ビールを自由に無料で飲めるようにしていたのは、それを業とする趣旨ではなく、デートの約束を円滑に運ばせ、電話応対のアルバイトを待つ女性の交代を早くさせるための手段としてそうしたまでのことと観ることが出来、それが前記の如くたまたま冷蔵庫の傍にいた女性に取らせ、客に渡させたことがあるからといって、同法条の「接客業」に当たるとはいえない。

次に、検察官主張の第三点であるが、ダイヤルQ2の関係で被告人に雇われているアルバイト女性と男客との間でデートの約束ができ、営業所外に出て、喫茶店、スナック、レストランやカラオケボックス等へ行き、共に飲食したり、歌ったり、踊ったりしたという点であるが、飲食したり、歌ったり、踊ったりしたとの点については、前掲証拠によれば、「A」と称する女性が男客と平成二年一一月八日午後四時三〇分頃、右営業所を出て国立市内の喫茶店兼カラオケボックスにいったこと、C子と男客が例外として平成三年一月九日午後一一時三〇分頃からデートに出て車で同営業所から三、四分離れた丸井デパート裏に行って駐車させ、その車中で会話をしていたこと、I子と男客が平成二年一二月末ころの午後七時ころ、居酒屋ライオン等に行ったこと以外は、これを具体的に認めるに足りる証拠がなく、どの女性が男客と何時どのような交際をしていたのか判然としないが、右アルバイト女性の営業所外での右接客行為が被告人の接客業における接客行為に当たるといえる為には、同女性の営業所外での接客行為について被告人と右女性との間に支配、従属の労働関係が存するか、右女性の接客行為が被告人の接客行為そのものとして同一視し得るだけの一体性の認められる場合に限られるところ、本件においては、被告人は、右アルバイト女性にダイヤルQ2による電話応対のため使用している立場から夜間一一時以降の外出を禁じ、デートの時間を一時間以内と制限していたのであって、外出先での行動は、当事者間の自由にさせていたものであって、被告人において右女性らに対し、指名した男客とのデートに際し、自己の営むあるいは関係のある店でのデートを指定したり、右女性に対し、被告人に代わって客をもてなすように指示したり、もてなし方を教育、指導したという事実も認められなく、前掲証拠によれば、ダイヤルQ2の関係で被告人に使用されているアルバイト女性は、男客と営業所外でのデートをしたくなければそれを拒否することもでき、デートに応じたときには、その間の電話応対による時給はカットされる仕組みになっていたこと、女性がデートして男客から前記の五〇〇〇円を貰えなかったときには、それを被告人の方で補填するような仕組みにもなっていなかったことが認められる。右の様な状況下では、被告人がダイヤルQ2の関係で使用している右女性の営業所外における接客行為であっても、その接客行為に対し、被告人が支配を及ぼすような労働関係になく、右女性の接客行為を被告人のそれと同一視しうる一体性も認められないからこれをもって被告人の接客業としての接客行為に当たると観ることは出来ない。そして被告人の以上の業務全体を一個としてみても、右接客業の意義、内容について拡張解釈をしないかぎり、労働基準法上の接客業に当たるということは出来ない。又被告人は、個人事業者であるから、労働基準法施行規則一条三号の適用もなく、従って、被告人の本件行為が、各公訴事実記載のとおり、外形的には一八歳未満の女子を深夜業に使用したことになり、一八歳未満の年少女子の風紀上、健康上もしくは福祉上好ましくないものであるからといって、その故をもって、被告人を処罰することは出来ず、被告人は無罪である。

よって、刑事訴訟法三三六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官松田光正)

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